自閉症児や多動児の困った行動パターンに翻弄される保護者の方にとって、脳幹リズムにはたらきかける日々の習慣づけで、子どもは変わっていきます。
脳幹は、本能レベルの活動を支配している「原始的な脳」の部位です。そこから、発達障害児特有のパターン化したこだわり行動が表れてくるのです。脳幹にコントロールされた状態を想像することは難しいのですが、私たち大人が日常生活で無意識に行動していることはよくあります。
熱いに触れると、意識よりも先に手が動きます。また、車の運転でも慣れてくれば、複雑な手足を使った動作が無意識で行われます。つまり、これらは潜在意識に刻み込まれた自動的な行動パターンなので、意識をしなくても勝手に動くようになっているのです。
また、条件反射も、これと同じである一定の条件刺激が準備されれば、からだが自動的に反応してしまいます。多動児や自閉症児の脳の中で起こっていることも、この条件反射的な行動を発生させる震源地である脳幹に強く左右されている現象なのです。
この反射的な行動の抑制に焦点をあわせること以外には、発達障害児の変化はたいへん難しいのです。各種メソッドは、結果として症状が軽減していく背後には、この原始反射への働きかけがなされているからです。
たとえばドーマン法の感覚刺激も複数の指導員が発達段階の運動刺激を順序立てて行っていく
もので、最初は、この方法で脳性麻痺児の改善などが起こることが報告され、その後、発達障害児にも行うようになったのです。ドーマン法も結果的には「原始反射」を弱める外的負荷を加え続けることで、自閉症児にも効果が出だしたのだと思います。
脳もからだの部位であるので、物理的な刺激が脳には有効だという方もおられるが、脳幹の特徴は、精神的な刺激にも反応することがわかってきています。いわゆる器質説すなわち、運動機能障害だけとは言い切れない現象(心理的な原因)も数多く報告されている。
脳性麻痺や自閉症(重度で、コミュニケーションは困難で、逆クレーン現象というものが報告されている。かろうじて祖語段階の発声しかできないような子どもでも時々起こる現象で、
それは筆談(ファシリテーティッド・コミュニケーション=FC))という不可思議な現象である。NHKの番組でも数年前に、取り上げられ、賛否両論(非難中傷が圧倒的に多かった)となったことがある。
この現象は、器質説では、十分説明ができないという。あたかも、運動機能の障害に阻まれて、脳幹の奥深くに、介助者の気持ちが響くとでもいうような...。こころが封印されている可能性も否定できないとでもいうべき不可思議な現象があります。
その他、発達障害児にも有効といわれる「動作法」とう心理療法がある。この方法を開発された成瀬悟策さんは著書の中で、からだの不自然な緊張(筋緊張)が、脳性麻痺児や自
閉症児の場合、腕上げ動作の時に、手を添えることで、スムーズに動かせるのだという。動作法は、もともとは脳性麻痺児への暗示(催眠)効果を使ってやり始めたのがきっかけだったという。
暗示効果は、プラシーボ効果として、医学の世界では認知されている現象です。臨床試験データを作成するには、このプラシーボ(偽薬)との比較が基準になっています。
医薬品開発に携わる研究者にとって、プラシーボ効果以上の効能を出せる合成新薬の製造はなかなかたいへんだという話はよく耳にします。
FC現象と同じく動作法でも、介助者が手を触れることで、脳幹リズムが整い、意志→努力・行動→動作完了という「原始反射の制御」の一つのヒントを与えてくれる。
同じく「抱っこ法」という文字通りストレートに愛情を注ぐ「抱っこ」という手法によって、自閉症児を心理面から安心・信頼の関係構築をめざし改善していくプログラムがある。(阿部秀雄さんが普及されている)これも、愛情込めた抱っこという行動が、脳幹に響くことは十分考えられる。同時に、原始反射のリズムで激しく抵抗する子どもに対して屈せずに、長時間かなりの力で押さえつけることにもなる、このような一定のリズムを保持し続けることは、原始的な行動反射を弱める結果となることは事実だと思います。
いわば、執拗な抱きしめという行為が結果的に、こどもの「原始反射を抑制」する形になり、多動やパニックが軽減される事例もしばしばあるという。ただ、わが子への愛情があるとはいえ、親にとってはハードな手法だといわれている。
そして、他にも、小児から成人の重度自閉症児のために長年、体を張って取り組んでこられた片倉信夫さんは、トータルな発達メソッドを摂り入れながら活動された結果、次のような確信に至ったと著書の中で披瀝されています。
重度の自閉症児や知的障害児には、「実際の必要性だけが知的障害を持つ子どもには響くのであって、一般に養護施設や作業所で取り組まれる、ママゴトのような、安全・安心で楽な作業は、知的発達にはなんら効果を表さない」と結論されています。
これは、近江学園・びわこ学園を創設された糸賀一雄氏や同僚の田村一二氏、池田太郎氏らが、片倉さんと同じような「障害児教育に全身全霊を込めて取り組まれた」先達から、得た核心部分だという。月並みな言葉だが、本気・気迫・迫力といういわば、殺陣のような真剣勝負に近い関係性(間合い)で接することが要諦だという。
このことからわかるのは、脳幹は、本能的な部分を司る動物的レベルの行動だという点です。その結果「原始反射」という不自然なリズムに翻弄された状態が自閉症児だと考えられます。そのリズムを組み替えるには、脳幹へのさまざまな感覚刺激がある程度有効だが、最終的にたどり着いたのは、脳幹を揺るがすためには、本気の迫力を子どもに対して「照射していく」という地点だといえるのではないでしょうか。